報告者:ヤンゴン事務所/東京事務所 新石正治
前回の記事から6月現在までの現地や活動の状況を報告します。
ミャンマーは、2021年のクーデター以降、各地で内戦が激化し、紛争地を中心に深刻な人道危機にありますが、ここ中央乾燥地も例外ではありません。
マグウェを中心にマンダレー、ザガインにまたがる中央乾燥地は、年間降雨量が他地域に比べて10分の1ほどで、毎年乾期には水不足に陥るため、深井戸が村の人々の重要な水源になっています。
2021年以降、内戦激化の影響で経済基盤が大きく損なわれ、村の財政状況が悪化し、深井戸のメンテナンスはもちろん故障修理でさえ、費用を賄うことができないケースが増えています。
私たちは、内戦による経済的困窮から修理ができなくなった村の深井戸の修繕支援を2024年からおこなっています。
現地パートナーグループNWSG(National Water Service Groupの略。元BAJスタッフが設立)とともに、水中カメラを使った故障診断、適切な部品や機材の選定と交換、孔内洗浄、井戸管理担当への技術的な助言などを通じて、長期化する内戦で毀損されていく生活インフラ(深井戸)を修繕活動によって保守し、人々の生活環境の維持を図っています。

深井戸近くの貯水タンクに水汲みにくる牛車(チャウンバードウ村)2025年
ミャンマーで活動するNGOや国際機関の状況は非常に困難です。体制側の締め付けはもちろんですが、アメリカにおける国際援助の方針転換も影響し、様々な組織が事業の縮小、停止、または事務所閉鎖に追いやられています。
そもそもNGO登録(法人登記のようなもの、これがないと法的な立場が保証されず活動が難しくなる)が完了できた組織がとても少なく、不安定な立場で活動している団体がほとんどです。私たちは幸いさまざまな関係者の尽力で登録できました。

村落開発局との覚書 2024年
2026年1月は、まずカウンターパートの村落開発局に資金調達の状況が芳しくない旨を報告するところから始まりました。井戸修繕の緊急支援が必要な村落の調査と選定はすでに終わっているため、その中から、より緊急性の高い井戸10本限定で活動できないか交渉したところ、年間計画書を提出すれば活動許可の手続きに入る旨の返事をもらいました。すぐに実施計画と予算を作り直し、2月下旬に提出しました。しかしながら6月現在許可はまだ下りていません。いくつかの問合せと修正依頼に対応し、省内での承認を待っているところです。
また、現在ミャンマーで活動するNGOのあいだで懸念されているトピックとしては、2月末ごろに発信された登録局からの通知があります。いわく全てのNGOは定期報告の際に銀行預金残高証明を提出し、口座に3億チャット以上(日本円換算が難しいですが大体1800万円くらい)保持しないといけないとのこと。現状では不可能な条件のため「まな板の上の鯉」で臨むしかありません。
加えて、5月末には大統領演説のなかでNGOへの批判的な言及があり、上院でNGOに関する新たな委員会が設置されました。今後のNGO活動全体に様々な影響が出てくると予想されます。

古くなって使用できなくなった揚水ポンプの部品と交換部品(ポンター村)2025年
乾期を迎えた中央乾燥地域では、村落からの井戸の修繕依頼が集中します。協働パートナーであるNWSGには、3月から5月にかけて連日村落に移動して修繕事業を行ないました。約一日1本のペースです。
NWSGはクレーントラックを2台所有していますが、この度、1台が不具合を起こしたために新たに中古クレーン者を購入したとのこと。不具合のあった1台を売却したお金では足りず、借金をしたそうです。資金繰りは現在のところ問題ないようですが、万が一、財政面で危なくなった際はBAJから貸付を行なうことを検討しています。

NWSGが新たに購入した中古クレーン車 2026年

井戸孔内洗浄(チャウンバードウ村)2025年
NWSGには例年250件ほどの修繕依頼が来ます。政変前は8割以上の村落が整備費用を問題なく賄うことができました。しかし、現在はそうした村落は5割に減少し、3割の村では貯蓄金が不足した中リスク状態、2割が貯蓄金がほぼ底をついた高リスク状態に陥っています。
長期化する内戦によって、生活インフラである井戸をメンテナンスできず故障したまま放置された井戸も珍しくありません。
BAJが支援対象とするのは、そうした緊急性の高い井戸です。

揚水不可だった井戸が再び揚水可能に(ポンター村)2025年
私たちは中央乾燥地において1999年から生活用水供給事業を行ってきました。水源の電気探査、深井戸建設、深井戸修繕、井戸維持管理のトレーニング等を実施して、同地域で信頼と実績を作ってきました。これまでに125本の新規深井戸を建設し、500本以上の既存井戸修繕を実施してきました。
2017年に現地スタッフたちが後継組織NWSGを設立し、以降は同グループを後方支援する体制に移りましたが、2024年に再び日本のNGOとして前面に出ていくことにしました。
背景は上段の通りです。NWSGはローカルビジネスとして事業を行なっていますが、ビジネスではカバーできないケースに支援活動として対応するためです。

村の人たちが見守るなか、井戸孔内洗浄(トゥインピュー村)2025年
BAJが活動を再開するニュースはすぐに村落に知られることになりました。かつての私たちの活動を覚えていてくださる人びとは多く、期待の声をいただいています。また、NWSGは現在もかつてBAJが使用していた白いクレーン車両(30年前の車両!)を現役で使っていますが、この「ホワイトクレーン」は地域の水供給のシンボルとして有名であり、政治的な緊張のある場所でも、かつての支援の記憶を共有している地域では、分断を超えた移動が可能になっています。もちろん一部地域では通用しない場合もあり、非常に危険な状況に陥ったケースがあったことも報告を受けていますが、村落に長年住んでいる人びとのあいだでは、私たちの活動はどこでも歓迎されており、NWSGもBAJも感謝と誇らしさを感じています。水供給に限らず、私たちの支援活動において信頼と中立性はセキュリティの観点からも重要です。

2000年代に日本から持ち込んだ白クレーン車。地域の水供給のシンボルに。2025年
さいごに3月に実施したNWSGリーダーの言葉を紹介して、本記事を締めくくりたいと思います。
※インタビュー全文は別途活動報告で掲載予定です。
「BAJには毎年予算獲得に全力を尽くしてほしいと思っています。そうすれば、給水における地域社会の問題に対処できます。また、私たちは最も困難な状況にある給水設備を選定したいと考えています。地域住民が自費で修理する場合、安価で耐久性の乏しいものしか使えません。BAJに予算があれば、イタリア製などの高品質な製品を使用できます。そうすれば、少なくとも10年は良好な状態を維持でき、その間、地域住民は自費でより多くの費用を節約でき、将来に備えた貯金が可能になります。年間10か所の給水整備でも構いません。定期的なサポートが望ましいです。」
●ミャンマー中央乾燥地域の水事業は、外務省NGO連携無償資金協力事業資金(2025年7月まで)と、皆さまからのご支援で行っています。
現在、夏募金キャンペーン中!
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