報告者:マウンドー事務所 U Zin Min Htike
激しい戦闘を経て、現在は新たな統治下にあるマウンドー。現地職員のU Zin Min Hkikeが、直接の戦火が収まった今も続く物流の遮断と物価高騰が、人々の食生活や住環境、さらには心のゆとりさえも奪っている現状を報告します(文中:1,000チャットは約80円)。
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■ にぶくなる町の鼓動 ― 燃料高騰と移動の制約
ミャンマー西部ラカイン州マウンドー。かつてこの町の朝は、バイクのエンジン音とともに始まっていました。自家用バイクがあれば夫の合図で後ろに飛び乗り、なければ三輪バイクの乗り合いに揺られて主婦たちは市場へ向かっていました。こうした日常の移動を支えていたのは、適格で安定して手に入るガソリンでした。
内戦前、ガソリンは1リットルあたり2,000~3,000チャットほどでした。上ミャンマーからの輸送も容易で、人々は燃料代をそれほど気にすることなく移動し、商売を営んでいました。しかし2023年11月に内戦が始まると物流は遮断され、状況は一変します。商人たちは危険を冒して燃料を運び込むしかなくなり、価格は一時16,000チャットまで急騰。現在は10,000~12,000チャット前後で高止まりしています。人々はバイクの使用を必要最小限に抑えざるを得ず、移動そのものが不自由になりました。
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マウンドー市内のガソリンスタンド。以前の数倍の価格となった燃料を、慎重に給油する。
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料金の跳ね上がった相乗り三輪バイクタクシー。乗客はできる限り安くできる、多く乗ろうと交渉に必死だ。
■ 食卓に届かない日常 ― 物価上昇と生活の変容
燃料価格の上昇は、そのまま市場の物価に跳ね返っています。マウンドーの市場に並ぶ野菜や鶏、卵の多くは、数キロから十数キロ離れた農村からバイクで運ばれてくるからです。輸送コストの増加により、ヒョウタン1個は500チャットから3,000チャットへ、ジャガイモ(0.82kg)は約1,000チャットから4,000チャットへ、鶏1羽は20,000チャットから70,000チャットへと大幅に値上がりしました。
こうした価格の高騰は、食卓の風景さえも変えてしまいました。以前は当たり前だったミャンマー・カレーや具だくさんのスープは頻繁には作れなくなり、インスタントラーメンで食事を済ませる家庭が増えています。さらに、生活費の圧迫は医療にも影を落としています。軽い体調不良では病院に行かず、手持ちの薬で済ませることが増えましたが、その薬さえも今や高価です。その結果、不調を抱えたまま日々を過ごす人も少なくありません。
また、戦闘で損傷した家々の修繕も進んでいません。壁や屋根の傷を直したくても、建材価格が高騰しているためです。特に屋根用のトタン板は以前の約4.5倍もの値がつきました。本来は数年ごとの交換が必要ですが、多くの家庭ではブルーシートで覆うだけの応急処置にとどまっており、それが今の町の痛々しい風景となっています。
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燃油の高騰ですべてのものの価値が数倍になった。高価・品薄になったミャンマー商品にとって代わり、雑貨屋にはインドやバングラデシュからのものが増えた。
■ 失われた余白 ― 嗜好品と人のつながりの変化
物価の上昇は、人々のささやかな楽しみからも彩りを奪っています。多くの人にとって日常の潤いだったインスタントコーヒー(コーヒーミックス)は、朝や午後のひとときにスナックをつまみながら語らう大切なツールでした。しかし、その価格も1杯分が100チャットから670~1,000チャットへと跳ね上がり、もはや気軽に手に取れるものではありません。
茶屋で飲む甘いミルクティも、1杯200チャットから1,000チャットへと値上がりしました。かつては友人や同僚と気兼ねなく集まり、おしゃべりを楽しむ場でしたが、今では茶屋に足を運ぶ回数も減り、「人と会う時間」そのものが少なくなったと嘆く声も聞かれます。
戦闘開始から時間が経過しても、物流はほとんど回復していません。燃料も食料も多大なコストを払って運ばれ、そのしわ寄せは移動、食事、健康、住まい、そして人と人とのつながりにまで及んでいます。州をまたぐ物流が再び安定し、物価が落ち着くこと。それは単なる経済の回復を意味するだけでなく、人々が人間らしい日常を取り戻すための、不可欠な第一歩なのです。
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茶屋のミルクティは内戦前の5倍に。茶屋の賑わいも減ってしまった。
(翻訳 大野勝弘)
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